独立と子育てを楽しむくらし

近年サイクリストの聖地として人気のしまなみ海道。そのほぼ中央に位置する生口島の瀬戸田町に一軒の古民家カフェがオープンした。それが汐待亭(しおまちてい)だ。

オーナーの竹田さんは広島市出身。卒業後に養殖業界で働いていたところ、その会社が倒産。これをきっかけに好きだった音楽を生業にしようと上京することに。
サイクルショップや飲食店を掛持ちしながら生計を立てるところから、竹田さんの東京生活は始まった。次第に音楽の仕事も増え、サイクルショップの店長も任されるようになり、順風満帆な東京生活になっていく。
竹田さんは、自分のキャリアを生かし、「自転車」と「カフェ」両方を楽しめるお店をつくるという夢も考えるように。

順当に考えると、そのまま東京で独立しそうなところ。ところが、この後竹田さんは尾道市へ移住することになる。彼はなぜ順調に生活が進みだした東京でなく、出身地の広島市でもなく、尾道市へ移住し独立をしたのだろうか。

魅力的な物件との出会い

竹田さんが具体的に独立のことを考え始めた頃、東日本大震災が起こった。
「独立の事だけを考えると東京でもよかったんですが、子育てをしているイメージが東京では出来なかったんですよね。
震災後その思いはますます強くなって、広島へ戻ることにしたんです。」
彼が地元の広島市やその近隣ではなく尾道を選んだのは、たまたまだったと言う。
最初は移住者や子育てに手厚い補助金を出す他の市を検討していたところ、該当するエリアが県北だったことで冬季の営業に不安があったことが背景にある。

その点、尾道なら温暖で観光客も多く集客も望めたこと、竹田さん自身がサイクルイベントで何度か生口島を訪れたことがあったので馴染みがあったことも大きかったそう。そこで実際に生口島に訪れて、不動産業者に物件を紹介してもらうことに。

「不動産業者に偶然見せてもらい気に入ったのがこの物件でした。この建物を見て、これだと思ったんです。そういう意味で、尾道だから移住した、というよりこの建物のある尾道に移住したという方が近いんです。」

それまで培ってきた「サイクル」「音楽」「カフェ」という要素を統合できる場所として、汐待亭が最適だと考え、竹田さん一家は2015年に移住する。
現在、子育て真っ最中の竹田さんは瀬戸田町をどう感じているのだろうか。

子育て世代の移住のススメ

竹田さんが移住してきて良かった点として、都会だと減ってきている近所付き合いがここでは出来ることなのだとか。

「瀬戸田町での暮らしは近隣の方の応援もあり、とても充実しています。子どもにとっていい環境です。子どもがいるとお互いに話すきっかけとなり、とけ込みやすいんですよね。子どもは物怖じしないで飛び込んでいってくれますから。」

最近は地域でも子どもが増えてきていて、子どもとお母さんが楽しめる場所が足りないと感じているのだとか。
そこで竹田さんは、自宅近くの空き地を遊び場にすべく交渉し、こつこつと開墾しているという。「無いなら作ればいい」、その行動力は移住者ならではかもしれない。

移住を考えている人へ

「移住する前はそれなりに不安もありました。住んだことのない土地だから当然だし、不安をあげたらキリがない。実際に移住しないと分からないからあえて考えないようにしていました。ただ、調べておけばよかったなという事はいくつかありましたね。小児科、産婦人科が遠いこと、保育園に入りづらいこと、公園が少ないことは、移住してから知りました。」

都会から島へ、ハードルが高いように思えるが意外とそうでもないそうだ。

「瀬戸田町はいわゆる“田舎”と違い、移住しやすい。コンビニもありますよ。都会からでもそんなに構えなくても大丈夫な場所。
三原や福山といった市街地にすぐ行けるのも便利ですね。自然が近いのでサイクリングや釣りなど、新しい趣味が見つかるかも知れません。移住初心者におすすめの地です。」

インタビュー中、奥さんからお子さんの面倒をバトンタッチされた竹田さん。
ようやくつかまり立ちが出来るようになったお子さんを優しい笑顔で見守っていた。たまに机の上の書類をいたずらしようとする子どもを、すぐに高い高いで回避し、お互いにきゃっきゃと楽しんでいた。
瀬戸田町での子育てはどうか?聞かずともその笑顔と余裕が物語っていた。

(取材:平成28年12月)