自分の考えるものづくりに、ちょうどいい環境

尾道の斜面市街地と海岸の間を、東西約1km以上にわたって続く尾道市の本通り商店街。その一角、中央街と呼ばれるアーケード街に「寺山眼鏡店」はある。
 
ここは、眼鏡のデザインから製作、販売までを一括して行う、全国でも珍しいスタイルの眼鏡店だ。
 
店主の寺山洋平さんは、大阪府堺市の出身。大阪や、『めがねの聖地』・鯖江で修行を積んだ。2015年に尾道に移住、2年後の2017年5月、「寺山眼鏡店」を開業した。

「ピンと来た」 尾道

大阪府堺市出身の寺山さん。尾道には親戚も、知り合いもいなかったという。そんな中、どうして尾道への移住を決めたのだろうか。
 
「インスピレーションですね。ピンと来た。」
 
「やりたいと思っていた、『自分で作って、販売する眼鏡店』というスタイルと、尾道のまちがハマりました。尾道には、海や山といった、ものづくりに大事な自然、文化的な部分まで、色々なモノがまちなみの中につまっています。」
 
寺山スタイルの拠点となる店舗探しには、焦らず時間をかけた。
 
「学校を卒業後、大阪で眼鏡のデザインに携わり、その後福井県の鯖江で眼鏡の製造に携わりました。30歳頃、独立を視野に鯖江の会社を辞めました。それから妻の実家がある世羅町に住み、県北の眼鏡店で働きながら尾道で店舗を探しました。」
 
出店するのは、「尾道の商店街で」と考えていた。見つかった建物は、寺山さんの思い描く店舗のイメージと一致したという。
 
「人に知ってもらうためにも、人の流れがある尾道の商店街でお店を出したいと思っていました。この建物は昔、画材を売るお店だったそうです。商店街に何度も通ううちにいろんな人とつながって、ここを紹介してもらいました。」

「人と違うことを恐れない雰囲気がある」

商店街に開店して、驚いたことがあるという。
 
「地元の年配の方でも、うちみたいに新しくできたお店をのぞいてくれる。そして、オリジナルデザインの眼鏡を買ってくれる。尾道は、人と違うことを恐れない雰囲気があると思います。」
 
また、「商店街だからかもしれませんが」と前置きしつつ、尾道の人情について感じていることがある。
 
「ヨソモノでも、旅行者でも気軽に話しかけてくれる。オープンな雰囲気で、寛容さがあると思います。」

寺山眼鏡店のスタイルと尾道の関係

寺山眼鏡店のオープン時期は、尾道市の本通り商店街から眼鏡店が少なくなってきた時期と重なっていたため、地元の人に喜ばれているという。
一方で、今のオーダーメイドの眼鏡店というスタイルについては、友人や同業者からは止められたそう。
 
「デザインから製造、販売までを行う、オーダーメイドの眼鏡店は、その場ですぐに買って帰れません。お届けまで1~2か月かかることから、観光地には向かない。『やめた方が良い』と言われました。」
 
しかし、尾道の観光のスタイルと寺山眼鏡店のスタイルはうまくハマったという。
 
「実は現在、お客さんの半分以上は観光客の方なんです。皆さん、まち歩きの途中に立ち寄って注文されます。お届けまで1か月以上かかることを説明すると、『じゃあ、次に来たときに受け取るから』と。」
 
団体旅行ではなく、個人の自由な旅、何度も繰り返し訪れるといった、その日限りではない尾道の観光スタイルともうまくハマったのだとか。
さらに、休日は人が多く、平日はほどよく静か。商店街の人通りも、ハマった。多すぎず少なすぎず、ちょうどいい。
 
「人が多すぎると、製作の時間がとれないため、製作と販売の両立が難しい。尾道はちょうど良かったと思います。」

お気に入りの場所は、立花海岸

住まいは商店街ではなく、千光寺の山頂付近。そこから商店街に通う。千光寺山ロープウェイでの通勤もやってみたことがあるそうだ。
 
店舗が休みの日は、眼鏡をつくる日々。気分転換に、散歩がてら住吉浜で尾道水道を眺めたり、対岸の向島までドライブ。立花海岸に海を見にいくことも。
 
「海が好きなんです。鯖江の時も海を見に行ってましたが、尾道は海が近い。車で少し走れば、立花海岸まで行けますし、尾道水道へは徒歩でも行けます。」
 
現在、夫婦・2人のお子さんとの4人暮らし。学校の規模感も寺山さんにとって、『ちょうどいい』とのこと。
 
「子どもの学校は1学年20人くらい。少ないぶん、学年を超えて仲が良い印象です。地域には自営業の人も多く、人付き合いが濃いと思います。私にとっては、ちょうどよく、うまくハマっています。」

移住を考えている人へ

「尾道は移住しやすい場所だと思います。」と寺山さん。
 
「寛容な人が多くて、抵抗感が少ないのか、外から来た人もなじみやすい雰囲気がある思います。」
 
寺山さんにとっては、『人間関係の濃さ』がちょうどいいという。一方で、その濃さゆえに、都会向きの人には合わないかもしれないとも。
 
自分の足で見て回り、人とつながることで更に次につながる。
同じ条件でも、合わないことも、合うこともある。『ちょうどいい』加減を自分で確かめることが大事なのだと教えてくれた。自分のものづくりのスタイルにこのまちは合っているか。自分の目と足でよく確かめてからの移住。ものづくりにも、生活にも、尾道のまちは寺山スタイルにちょうどいいようだ。
 
(取材:平成31年1月)